近代・現代日本画専門の美術館として親しまれてきた山種美術館が、江戸時代の浮世絵作品も多数所蔵していることは意外に知られていません。開館記念特別展第5弾となる本展では、これまでほとんど公開される機会のなかった浮世絵コレクションから約85点を展示いたします。
当館の浮世絵コレクションは、六大絵師(鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重)の作品が揃っているだけでなく、保存状態もよく、国内でも稀少な作品や摺りのものが含まれていることが特徴です。たとえば、初期の浮世絵版画の中でも現存数が少ない紅絵(漆絵)作品、奥村政信の《踊り一人立》や、良好な保存状態の作品が数少ないことで知られる東洲斎写楽の《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》の黒雲母摺りの大首絵なども見どころです。また、保永堂版の初摺である歌川広重の《東海道五拾三次》は、画帖装の扉に用いられた題字の1枚が含まれ、この題字があるものは珍しく、注目に値するでしょう。この《東海道五拾三次》を一度にすべて公開するのは、当館でも20年ぶりのこととなります。
近代、現代の作家、日本の画家のみならず、ヨーロッパの画家にも多大な影響を与え、江戸庶民に愛された浮世絵は、当時の風俗や風景を知るうえでも大変興味深い資料です。一方で、浮世絵にはいくつもの摺りが存在し、その微妙な違いにより年代や価値が異なります。一見しただけではわかりにくいような、摺りによる色や模様の違い、摺りの技法や描かれている事柄、歴史的背景なども、基礎知識を知ればその理解は一層深まります。「浮世絵入門」と題した本展は、皆様の素朴な疑問や謎に答えるべく、当館所蔵の浮世絵コレクションを通して浮世絵の「いろは」をご紹介する展覧会です。