19世紀末から20世紀初頭にかけて、ベルギー北部のフランダース(フランドル)地方にある村シント・マルテンス・ラーテムには、フランダースの芸術家が移り住み、質の高い豊かな創作活動を展開しました。このような芸術家のコロニーは、19世紀半ばからヨーロッパ各地で見られたもので、フランスのバルビゾンやドイツのヴォルプスヴェーデ、ロシアのアブラムツェヴォなどもこれにあたります。その背景には、産業革命が進展し生活環境が変わる中、膨張する都市の喧騒を離れて、のどかな田園の中に芸術家が制作の場を求めたことがありました。
シント・マルテンス・ラーテムは、フランダースの古都ゲントの近郊にある小さな村です。緑豊かな大地の中央には、レイエ川が蛇行しながらゆっくりと流れ、現在ではフランダースの人々が最も住みたい土地の一つとなっています。ここに芸術家のコロニーが誕生したのは、村の美しさと村人の素朴さに加えて、コロニーに参加した多くの画家の出身地であったゲントから至近距離にあった点もあげられます。それはパリとバルビゾンの関係と同じで、ゲントが母体となり、この芸術家のコロニーは誕生しました。
本展はシント・マルテンス・ラーテムで制作した芸術家の作品を、時代を追って3つの世代に分けて紹介します。象徴主義、印象主義、表現主義。様式はことなっても、彼らはみなこの村を愛し、のびのびと制作し、互いに交流しました。フランダースの光の「光」とは、田園の中に芸術家たちが見出したフランダースの輝きであると共に、彼らの魂の解放を意味し、それぞれの光る個性を表しているのです。