長谷川潾次郎(はせがわりんじろう 1904-88)は戦前から戦後にかけて長く制作を続け、独自の写実表現を開拓しました。いわゆる画壇的な世界には属さず、また時々の美術の流行にも超然たる態度をとり、結果として日本の近代美術史上極めて特異な位置を占めています。平明かつ温厚な写実表現でありながら、神秘的な幻想性を帯びたその作品は、みる者に忘れがたい印象を残します。何年もかけ、納得いくまで観察しないと描かない寡作、孤高ともいえる制作態度、江戸川乱歩にも称賛された探偵小説作家としての一面、家庭環境(父・淑夫 ジャーナリストの先駆け、兄・林不忘『丹下左膳』作者、弟二人は文学者)など画家潾二郎を取り巻くエピソードも多いといえます。しかし、作品発表の場が少なく、一部の識者に高い評価を受けながらも、その画業の全体像はいまだ明確にされていません。
公立美術館として初めての回顧展となる本展は、初期から晩年の作品を網羅し、そのきわめて独創的な絵画世界を検証します。近年、雑誌、テレビ等で幻の画家として繰り返し取り上げられ、再評価の機運が高まる長谷川潾二郎の全貌をご紹介する展覧会です。