江戸時代末に活躍した漆職人・玉楮象谷は京都の寺社で南方や中国から伝来した漆器を見て研究し,蒟醤(きんま),彫漆(ちょうしつ),存清(ぞんせい)の三技法を讃岐の地に根付かせました。細かく正確な彫りを得意とした象谷は堆朱や堆黒など彫漆作品を讃岐の特産品「讃岐彫」として京阪方面に送り出しました。
この「讃岐彫」は象谷の子孫に受け継がれますが,明治40年頃には,木彫や彫漆を得意とする彫りの名手たちが次々と輩出されました。
「百花園」の職長格であった石井磬堂(けいどう),磬堂と彫りの双璧と称された高橋皖山(かんざん),磬堂の一番弟子となり後に人間国宝となった音丸耕堂(おとまるこうどう),磬堂の二番弟子となり彫りの仕上げをした鎌田稼堂(かどう),磬堂の義弟,森象堂(ぞうどう)らが身近な自然を題材に,細かくも鮮やかで,ときに写実的な表現を彫漆の手法により実践しました。また蒟醤で人間国宝に指定された磯井如真は彫漆の名手でもあり,緻密で気品溢れる名品の数々を残しています。
このたびの展示では,玉楮象谷,石井磬堂,音丸耕堂,磯井如真ら8名による彫漆作品35点を通して,讃岐の伝統的な漆芸技法のひとつである彫漆における緻密な美の世界をご紹介します。