東大寺は、創建以来現在に至るまで、日本仏教の中心的存在であったと同時に、新たな文化のいわば「ゆりかご」のような存在でもありました。とくに画家杉本健吉は、東大寺に育てられた画家といっても過言ではないほど、東大寺に深い縁がありました。
かつての奈良の都、平城京の東に位置する東大寺に杉本健吉が最初に訪れたのは、昭和15年のこと。その坂あり、池あり、林ありといった変化に富んだ地形や、広大な境内に点在する大仏殿、二月堂、三月堂、南大門など様々な諸堂。また、現代の奈良市街地から直近の場所にありながらも、不思議な調和を感じさせる大仏殿の遠望。東大寺がもつそれらの風景の数々は、杉本健吉にとってかけがえのない終生のテーマとなっていきました。また、歌人会津八一、小説家志賀直哉、写真家入江泰吉らと交流を深め、切磋琢磨して制作に打ち込めるようになったのも、東大寺の僧侶上司海雲師の仲立ちによるものでした。
今回の展示では、絵画はもちろん、東大寺の絵馬や散華を用いた図案など、杉本健吉と東大寺との縁から生まれた作品の数々をご紹介します。特別企画「奈良博物館」を描くとともに、画家杉本健吉の真骨頂ともいうべき作品をご堪能ください。