近代洋画が明治の日本で受入れられ、定着し、発展して行った過程には、水彩画が大きな役割を果たしました。初期のころは、水溶性で馴染みがあり、材料も入手し易く、また取扱いも簡単であることから、画家たちは油彩画制作へ進むための準備段階として、まず水彩画をたしなむことから出発しました。その後、技術も高まり、大下藤次郎、三宅克己など、水彩画を専門とする優れた画家たちが輩出されるようになると、油彩画と同等の芸術的価値を持つ作品としての認識が広まりました。そして、明治期の後半には、大下による「水彩画之栞」をはじめとするアマチュア向けの水彩技法書がベストセラーになるほど人々に受入れられ、「水彩画の時代」と呼ばれる時期を築きました。
このような歴史を持つ水彩画ですが、私たちにとっては、学生時代に誰もが経験した身近な存在でもあります。それだけに、不幸にも本来の魅力を感じる前に、子供時代に生じた苦手意識のトラウマを抱え込んだまま、今に至っていることはないでしょうか。
本展覧会ではこのような水彩や素描による風景画を所蔵品からセレクトし、「みず絵」の歴史的な背景を紹介するとともに、新たな魅力の再発見につなげていこうとするものです。