芹沢銈介は、古今東西の工芸品を数多く蒐集しました。応接間の床には様々な国の絨毯が敷かれ、ソファーや肘掛け椅子にも掛けて楽しんでいたようです。
絨毯は織物のなかでもダイナミックかつ華麗な手工芸のひとつです。手織りによる深い味わいは、諸民族の長い歴史を物語っています。気温の変化が激しい高原地帯、あるいは内陸性の乾燥地帯で暮らす人々によって、保温・断熱に加え撥水性を備えた絨毯はなくてはならない生活必需品でした。イランやトルコなどのイスラム圏では、敷物や壁掛け、間仕切りとして使用するほか、礼拝専用の特別なミヒラーブ絨毯が作られました。文様は聖地メッカのカーバ神殿を表現しているといいます。コーカサス地方の遊牧民族の手によるものは、毛羽のない綴織で一般にキリムと呼ばれています。「羊の角」や「目」と呼ぶ幾何学的な文様は「豊かさ」「魔除け」を意味し、深い祈りが感じられます。北米ナバホ族のブランケットは、縞や菱形の組み合わせが多く、「目くらまし」と呼ぶ不思議な文様が特徴です。絨毯はシルクロードを経てやがて日本にも伝わり、羊毛から木綿に素材が変わり鍋島緞通や赤穂緞通として生産されました。
絨毯のデザインには諸民族の伝統に裏打ちされた世界観や美意識が色濃く現れ、自然環境や生活スタイルまでもが反映されています。