四方を海に囲まれたわが国は、古来、海を越えて渡ってくる大陸の文化を受容発展させながら独自の文化を築き上げてきました。特に遣隋使や遣唐使あるいは宋の商船などによってもたらされた中国の品々は、その時代の最新モードとして日本人の憧憬の対象となってきました。そして、このような日中海域交流における中国側の最大の窓口とされたのが、中国を代表する港湾都市として著名な浙江省・寧波(ニンポー)です。
寧波はかつて明州とも呼ばれ、杭州湾の出口に位置する中国有数の港として発展してきましたが、それにも増して寧波が日本人を魅了し続けたのは、この町を中心に栄えた最新の仏教文化に他なりません。観音信仰の聖地・普陀山や仏舎利信仰の聖地・阿育王山などが立地しており、これらの名刹には数多くの僧侶たちが日本から巡礼に訪れています。また日本禅宗の草創期に活躍した祖師たちが学んだとされる天童山も寧波を代表する禅院であり、日中禅林交渉史上に格別な存在となっています。
当展覧会は、このような寧波がもつ中国仏教の聖地としての側面に光を当て、彼の地から海を越えてわが国にもたらされたと考えられる仏教美術の名品の数々を一堂に会し、日本人が憧れ続けた寧波の仏教文化の魅力に迫ろうとする試みです。