現代の彫刻は、多種多様な表現様式で溢れています。時代の様相を反映し、様々なかたちを呈した現代彫刻の作品群は、もはや、従来の「彫刻」という概念では捉えられないものになってきています。
鈴木久雄(1946-)の作品もまた、現代彫刻の一つのかたちです。鈴木久雄の彫刻作品は、ステンレス鋼を鍛造して小さなパーツを無数に作成し、それらを溶接し繋ぎ合わせるといった手法で創り出されます。2007(平成19)年には、「距離」や「隔たり」、「大きさ」といった彫刻の基本的な要素に焦点をあてた仕事が評価され、〈距離・Irish Sky〉で第35回中原悌二郎賞を受賞しています。
本展では、2009(平成21)年1月に島田画廊(東京)で発表された〈散距離 Scattered Distances〉をはじめとする近作を中心に、鈴木久雄の造形世界をご紹介します。
作品を展示する中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館の建物は、旧旭川偕行社とも呼ばれており、1902年に陸軍将校の社交場として建てられた歴史的建造物です。クラシカルでモダンな洋館の雰囲気を持つ美術館の建築空間と鈴木久雄の現代彫刻作品との調和は、他に類を見ない、印象的で清新な「彫刻空間」を創出します。
実在する「もの」で表現される彫刻作品を現実の空間で体験することでしか知覚することのできない、彫刻本来のおもしろさ、楽しさ、ダイナミズムを体験していただければ幸いです。