平櫛田中は、多くの美術品を蒐集していました。そのコレクションは、日本の古い仏像、近代の彫刻、日本画、陶器、拓本、中国絵画など多岐に渡ります。仏像は、手元に置いて愛でるだけでなく、自分の彫刻の勉強にと、日常の制作の糧にしました。また、近代の作家では竹内久一、森川杜園はとりわけ田中が尊敬した彫刻家であり、明治以降の彫刻家の中で、誰が一番優れているかとの問いに「一に竹内久一、二がなくて三が森川杜園」と答えています。これらの作家の作品も、手元に置き制作の参考にしたと思われます。
また、同時代の作家とは共に研鑽しあった仲間であり、とりわけ日本美術院の若い彫刻家たちとはお互いモデルになり、肖像を制作し合いました。中でも中原悌二郎は田中より16歳の年の差がありましたが、友人として共に切磋琢磨し、その人柄と抜群の才能を愛してやみませんでした。32歳の若さで亡くなっていますが、近代彫刻史にさん然と輝く優れた作品を遺しています。
同じ日本美術院では後輩の彫刻家の作品にご注目ください。彫刻は日本画と違い、当時、思うように作品が売れませんでした。田中は、後輩の作品を本人に知られないよう、さりげなく買い求めていました。優れた彫刻家を、作品の購入という形で援助していたのです。
本展では、平櫛田中コレクションより、彫刻を中心に展示いたします。彫刻家・平櫛田中の眼を通して選ばれた珠玉の作品群をぜひご鑑賞ください。