大正期は、印刷技術と流通機能の発達によって、雑誌などの読み物が広く世の中に普及し、文化の大衆化が急速に進んだ時代でした。子どもを読者対象とした童話・童謡雑誌も相次いで創刊され、子どもの文化が形成されていきます。『コドモノクニ』は、大正11(1922)年から昭和19(1944)年にかけて刊行された子どものための絵雑誌です。豊かな人間性を育てるためには最高の芸術こそが必要である、という考えから、編集顧問に教育学者の倉橋惣三、童謡顧問に北原白秋、野口雨情、作曲顧問に中山晋平、そして編集主任に和田古江(雅男)と、各分野における当時の俊英たちが集結しました。教育における視覚的な効果を重視し、絵画主任となった岡本帰一や創刊号の表紙を飾った武井武雄をはじめ、川上四郎、清水良雄、初山滋、深澤省三、村山知義といった実力ある画家たちが誌面を彩りました。ページいっぱいにやさしい色で絵が印刷された『コドモノクニ』は、まだ文字が読めない幼児を含め、近代の子どもたちを魅了したと言われています。
この展覧会は、『コドモノクニ』の芸術性と、そこで活躍した童画家たちを紹介しながら、絵雑誌(絵本)という子どものための美術から近代化していく社会の様子を見ていこうというものです。子どもたちの手のひらで繰り広げられた夢の世界は、大人たちが抱いていた夢でもありました。近代を代表する文化人たちによってつくられ、子どもたちの手のひらで繰り広げられた「モダン」な世界を、絵雑誌『コドモノクニ』と童画家たちの原画作品を通してご覧いただきます。