土門は6歳のときに家の事情で酒田を離れてから40年あまり、故郷を訪れたことは全くありませんでした。1955(昭和30)年に本間美術館で個展を開いた際にも帰郷することのなかった土門でしたが、翌々年の昭和32年、雑誌『婦人画報』の企画で、幼い日の上京後初めてふるさと酒田の地を踏むことになります。「みちのくの港町-酒田風物詩-」のタイトルで掲載されたこのときの写真には、山王祭りに涌く街と、そこに暮らす人びとが活写されています。土門が滞在したのは5月18日から22日までのわずか5日間でしたが、祭り前日の神宿(とや)渡しの行事から始まって祭りの細部にいたるまで、とても熱心に約600枚の写真を撮ったといわれています。そしてこの撮影が、土門拳と酒田のむすびつきを深くしてゆく契機となったのです。
これらの作品は、一部が出版物に掲載された以外にはあまり発表されていません。土門拳記念館では、平成12年の5月に初めてプリントが一般公開されましたが、今回、新たにネガより起こしたプリント20点を初公開いたします。
神事、祭り行事、御御輿、奴振り、芸者さん、こどもたち、酒田の町並み・・・およそ半世紀前の5月の空のもと、土門拳が写したふるさと酒田の姿は、きっと懐かしいものばかり。活気ある酒田のお祭り風情があふれています。