石川大浪(1762~1817)は旗本の家に生まれ、江戸城の警護などにあたる大番を勤める一方、洋風画家として活躍しました。8代将軍吉宗の命により舶載された油彩画の模写したことや、杉田玄白の肖像画(重要文化財)はよく知られています。また、当代一流の知識人であった大槻玄沢、木村蒹葭堂、谷文晁などとも親しく交遊しました。
親交のあった大田南畝は、随筆『一話一言』で大浪が書画の類をかなり所蔵していたことを伝えます。蔵書の全体像は不明ですが、フランス語版『イソップ物語』や最新の海外情報であったニューホフ著『東西海陸紀行』などを所蔵していたことがわかっています。
その挿絵が、歌川国芳(1797~1861)による「忠臣蔵十一段目夜討之図」「近江の国の勇婦於兼」「二十四孝童子鑑」シリーズなど、洋風浮世絵版画の源泉として活用されています。国芳は、幕末期に浮世絵のあらゆるジャンルにおいて、個性溢れる才能を発揮した人気の浮世絵師です。
蘭学に深く関わった旗本画家と江戸っ子気質そのままの幕末の浮世絵師。大浪と国芳を繋ぐ蘭書を手掛かりに二人の画業を辿ります。