金子卓義(1943-2006)は北海道松前町出身で文化勲章受章者である書家・金子鴎亭(1906-2001)の次男として東京に生まれ、父・鴎亭に師事して古典の書を学び、1963(昭和38)年日展初出品初入選、64(同39)年日本書道美術院展最高賞・毎日書道展毎日賞受賞と早くから才能を発揮しました。72(同47)年には書道研究洪鳳社を結成して代表となり、後進の育成にも尽力します。また、日展、毎日書道展、創玄展など公募展を中心とした創作活動の一方、1980年代後半から毎年中国を訪れ、古典の書の研究に努めました。なかでも甲骨文や金文、簡牘や帛書などに見られる古代文字に傾倒し、史料の出土地を踏査するなど延べ四十回に及ぶ訪中で得た知見は、幅広く作品制作に反映されています。2003(平成15)年には個展「金子卓義―史記を書く」を開催、司馬遷の歴史書『史記』にまつわる話題と古代文字の変遷を重ね合わせた壮大なテーマに挑みます。この功績により04(同16)年毎日芸術賞を受賞、更なる飛躍を期待されていましたが、惜しくも06(同18)年春に63歳で逝去しました。
本展では、個展で発表された大作を中心に、初期から晩年までの代表作六三点を一堂に会し、その生涯を掛けた仕事の全貌を回顧します。生き生きと躍動する古代文字は、書の世界に新たな展望を開くとともに、書の領域を超えて広く人々の心に語りかけるでしょう。