昨年1月、日本画家横山津恵の急逝に際して、代表作を数多く所蔵する当館では哀悼の意を表し、所蔵品による回顧展を急きょ秋田市で開催いたしました。その反響にお応え、郷土作家シリーズの第10弾として、日本美術院において活躍した横山津恵の画業をご紹介いたします。近代日本画の革新の旗手は明治31年創立の日本美術院(院展)といえます。この創立から正員となった寺崎廣業は秋田市の出身でした。廣業亡き後、弟子であった高橋萬年が秋田から院展へ出品を続け、秋田に院展を根付かせたといえます。高橋萬年を師とした横山津恵も早くから院展に出品を続け、やがて秋田の日本画壇を牽引する重責を担っていくのです。
しかし、創造の道程は決して安寧なものでは有りませんでした。師風からの脱却、流行からの離脱、闘病による中断など、次々に突き当たる問題を器用に乗り越えられる横山津恵ではなかったからです。迷い、抗いながら、横山津恵は一歩ずつその道を拓いてきました。鑑をみればそれを支えたのは師萬年の「写生に徹せよ」という教えであったでしょう。横山津恵は終生それに徹し、制作を続けたのです。展覧会では院展出品作の中心に、横山津恵の代表的なモチーフである女性像をご紹介いたします。秋田、沖縄、バリ、ヨーロッパの美しい女性たちにインスピレーションをうけた作品です。風をまとい、花につつまれて誕生した、横山津恵のヴィーナスたちの競演をお楽しみください。