平松保城(1926- )のジュエリーは、シンプルなかたちのなかに金属のあたたかみをたたえています。その作品は、一本の金属の線から、金属板(面)の仕事へ、量塊へと広がりを見せています。そして、さらにはジュエリーという領域をも越えて、日常で使われる器や、壁面に設置される立体作品へと続いています。空間全体を含み込んだかたちへの意識は、再びジュエリー制作へと視線を戻したとき、平松のジュエリーを特徴づけるエッセンスとなっていることが明らかとなります。
戦時中、学徒兵として軍隊生活を送った経験から、平松は生きることへの切実な思いを抱くようになりました。人間が生きる上で真に価値のあるものを、という願いから、生活の中で使う喜びや楽しさを喚起するクラフトやジュエリーの制作に、とくに力を入れて取り組んできました。
1950年代半ば、宝石や貴金属の価値にとらわれず、かたちやデザインに重きをおくコンテンポラリー・ジュエリーが西欧からもたらされると、平松はこのムーブメントに共鳴し、その核となる考え方によって、自身の制作をいっそう盤石なものとしていきます。一方、海外での個展開催などをとおして、平松の作品は、簡潔なフォルムのなかに素材に対する美意識を表現したとして高く評価され、1994年には、金工で名高いドイツのジュエリーアート協会(ハーナウ)から、ヨーロッパ以外では初めて「名誉のゴールド・リング」を授与されました。
本展では、日本の彫金の伝統を継承しつつ、それを現代の感覚で斬新に展開する平松保城の初期から現在にいたるまでの約80点の作品で、オブジェ、器、ジュエリーという領域を横断して広がるその造形思考を読み解いていきます。