「加工されていない、生のままの芸術」を意味する「アール・ブリュット」という概念は、フランスの美術家ジャン・デュブッフェ(1901-85)が1945年に提唱したものです。当時のフランス美術界のアカデミズム化に反発したデュビュッフェは、精神障害者や幻視者をはじめとする正規の美術教育を受けていない人々が内発的な衝動の赴くままに制作した作品を高く評価し、既成の美術概念に毒されていない表現にこそむしろ真の芸術性が宿っていると主張しました。
このたび滋賀県立近代美術館では、デュビュッフェの母国フランスの非営利財団abcd(art brut connaissance & diffusion=アール・ブリュット:理解と普及)の所蔵品により、「アール・ブリュット」の代表的な約60作家、約130点による展覧会を開催します。abcdの活動の三本柱である 1)コレクション、2)ドキュメンタリー映画の制作、3)多角的な研究 を通じて「アール・ブリュット」が投げかける様々な問いに光をあてることを試みるものです。
また関連事業では多彩な講師を招き、広範な見地から「生命」と「表現」の問題を考える連続講演会を行います。本展がわが國における「アール・ブリュット」のさらなる理解と普及に寄与するとともに、「生命」により直結した「表現」のあり方について再考する機会となれば幸いです。