植田正治が生まれて初めてカメラを入手したのは彼が15歳のときです。ボタンを押せばシャッターが開き、レンズを通して入った一筋の光が目の前の光景を瞬間的にフィルムに焼き付けるという機構を持った小さな箱に魅了されて、それから70年もの間、飽きることなく毎日のようにシャッターを切り続け、新しいカメラに次々乗り換えては使いこなしていきました。
初めは舶来のしゃれたデザインや流行りものにいち早く飛びつき、戦後は日本のカメラ産業の発展で続々発売される国産新機種を楽しみ、晩年には携帯性に優れた高性能なカメラの登場で、その便利さをいち早く体験しました。カメラを使うことを心から楽しみ、見た目にこだわり、そして撮影態度とともにカメラに対しても植田流作法を持つことを常に忘れなかったのです。
植田が自分の写真を語るとき、カメラについてのコメントが付くことも少なくありません。もちろんそれはカメラ雑誌からの依頼で書いていたこともありますが、それ以上に撮影の楽しさをもたらしてくれたカメラのはたらきぶりを喜んでいるようでもありました。
植田正治にとってカメラを手にすることは、どれほど彼の写真人生を豊かなものにしたのでしょう
か。今回の展示では植田が愛用したカメラと同じモデルや、実際に使用したカメラを展示し、それらで撮影した作品とともにご紹介します。