近代の洋画家、原勝四郎(1886~1964)は生涯の大部分を郷里の田辺市と隣町の白浜町で過ごし、中央での作品発表は戦前は二科展、戦後は二紀展への出品にほぼ限られていたために、生前、その画業が広範に知られ、充分な評価がされるには中々いたりませんでした。
しかし原の、対象に内在する生命を表出させるかのような勢いのある筆触による表現、鮮やかな色彩の効果をいかした空間構成は、没後、残された作品が集中して紹介される機会を重ねるごとに、西洋絵画の単なる模倣でない、近代日本の洋画家独自の表現として、その評価を高めてきました。
また原は、若き日に本場の西洋絵画に接したいというやみがたい思いから、第一次大戦下のパリに渡り、その後フランス各地、アルジェリアを貧困のなか放浪するといった体験もしています。この時に残された日記は、多くの留学生が戦火を避けて帰国するなか、ヨーロッパに留まった数少ない日本人の記録としても貴重なものです。
今回の小企画展では、これまで田辺市立美術館が収集を進めてきた作品を中心にして原の画業を改めて振り返ります。原の残された作品は帰国してから後のものがほとんどですが、渡欧前、滞欧時の作品や、晩年によくした日本画、数多いスケッチなども展示して、広い視野からその活動を紹介します。