洋服を着て日常を過ごすことがあたりまえとなった現代の私たちにとって、着物(和服)を着る機会はほとんどなくなっています。現在では冠婚葬祭などの場面で目にするような特別な装いですが、戦前までは着物が日常の衣服として用いられていました。
本展覧会では、市民ミュージアムが所蔵する衣生活に関する資料の中から、長着や羽織、子どもの一つ身や四つ身といった普段着や、お宮参りや七五三の際に着用した熨斗目や祝着などの晴れ着を中心に展示いたします。どれも模様や柄だけでなく、縫い目の一針一針に着ていた人あるいは仕立てた人の思いが込められた大切な着物です。今では着物というと晴れ着の華やかな印象がありますが、普段着ていたものの中にもさりげないお洒落や仕立てのこだわりなどを見ることができます。その他にも簪や櫛・笄といった装身具や婚礼の道具、そして履物などの関連する資料もあわせてご紹介いたします。
また、晴れ着でも普段着でも着物を仕立てるためには、和裁という裁縫の技術が必要となります。裁縫技術を学ぶための教科書や練習用に造られた雛形、あるいは家庭で使われていた裁縫の道具などから、着物のもつ「粋(いき)」や「華(はな)」といったものを支えていた側面についてもご覧頂きたいと思います。普段から着物に親しまれている方には新しい発見を、なじみのない方には着物に興味をもつきっかけになれば幸いです。