横須賀美術館の前庭には、若林奮の彫刻作品《Valleys(2nd Stage)》(1989年制作/2006年設置)が置かれています。2003年夏、若林奮は美術館建設予定地を訪れ、自作《Valleys》の寄贈を表明するとともに設置について関係者と話し合いました。が、同年10月に逝去されたため、実際の設置は遺志を継いだご遺族と関係者の協力をえておこなわれました。
(複数の)谷を意味する《Valleys》という題名の通り、この作品はもともと二列の谷として制作されました。過去の展示では、焼きなました黒い鉄板と焼かずに錆びた赤茶けた鉄板を対比的に二列の谷として屋内に並べましたが、横須賀美術館では一本の直列の谷として屋外に設置しました。作家の提案で海の塩に耐えられるよう溶融亜鉛メッキを施したため初出品時とはやや趣の異なる作品となりましたが、鑑賞者は谷間を歩くことによって自然の中に置かれた作品のスケールを直接感じることができ、新たなアプローチが可能になりました。
本展は「若林奮―VALLEYS」展と題し、未発表作品を含む、立体作品約30点、版画・ドローイング約120点によって若林奮の仕事を捉え直すものです。地下や斜面への関心から、自身と対象の間を満たす空間を測る尺度「振動尺」についての考察を経て《Valleys》へと至る過程、そして《Valleys》から派生する作品群につながる制作をたどることで、私たちは新たな若林像を見出すことでしょう。