今日のベルギー北部にあたるフランドル地方で17世紀に花開いた藝術文化の豊穣さには、現代の我々の眼をも見張らせるものがあります。この栄ある時代の美術界を牽引していたのが、ルーベンスとブリューゲル一族です。
ルーベンスは、ギリシア神話やローマ史、聖書などから採ったドラマティックな物語を、豊潤な色彩で朗々と謳い上げて、宮廷人や聖職者の愛顧を獲得していました。加えて、像主の威風を力強く叙述した豪壮な肖像画でも評判を得ていました。作家と作品は別物ではありますが、観る者の気分を高揚させる躍動的な作品を創造したルーベンスの生き様は、画風と呼応するかのように華やかなもおでした。画家、外交官として精力的に活動し、英国とスペインで貴族身分に上昇した彼は、国際的なスターだったのです。
巨星を戴くルーベンス工房が隆盛を極める一方で、これに拮抗する勢力として活動していたのが、画家一族ブリューゲル・ファミリーです。彼らは、16世紀に風俗画のジャンルで一家をなしたピーテル・ブリューゲル(父)の子孫にあたります。ブリューゲル家の画家たちは、農村の暮らしや美しい花々などの世俗的な題材を取り上げ、巧緻な技術で平明な作品を制作しました。宗教主題と取り組む場合でも、観者が自然に作品世界に入っていけるように同時代の風景や風俗を描き込んでいる点に、注意が促されます。伝統と革新をテーマに、世俗画と宗教画の多様化を実現したのが、ブリューゲル一族の功績と云えるでしょう。
本展は、フランドル美術の黄金期に焦点をあて、歴史あるプラハ国立美術館の重要な所蔵作品70点を特別に公開するものです。多様な作品から成る珠玉のコレクションを前に、至福のひとときを過ごされることを願ってやみません。