愛知県拳母村(現・豊田市)出身の牧野義雄(1869-1956)が日本を発ったのは、1893(明治26)年、23歳のことでした。
最初はアメリカのサンフランシスコで働きながら絵を学び、1897年にロンドンに渡ります。下積み生活が続きますが徐々に作品が認められ、『カラー・オヴ・ロンドン』(1907年出版)では、ロンドンの様々な表情を独自の視点で叙情的に描いた挿絵が評判になります。そして初の英文随筆『日本人画工倫敦日記』(1910年出版)によって一躍時代の寵児となりました。その後も時代とともに変わりゆくロンドンで画家、文筆家、思想家として活動します。第二次世界大戦のため1942年に日本に帰国したとき牧野は71歳、日本を離れてから50年近くも経っていました。
豊田市美術館では牧野義雄作品を約60点所蔵していますが、これまで作品の状態を考慮して展示を控えてきました。牧野が渡英して110年目にあたる今年、水彩及び版画作品の修復処置が一段落を向かえ、一挙公開する運びとなりました。
今回は所蔵する水彩画を中心に作風の変遷をたどります。あわせて版画や油彩、書籍など、牧野義雄の世界を様々な角度からお楽しみください。