1999年にスタートした「MOTアニュアル」は、その時々の時代状況や美術動向を切り取るテーマ、あるいは現代における美術表現の可能性を探るテーマ等を設定し、若手作家を中心としたグループ展として毎年開催しています。本年は、「解きほぐすとき」をテーマに、事物をばらばらに解体し、解きほぐすことで自分なりに世界の輪郭を捉えようとする5人の作家を紹介します。
私たちの身のまわりには、多くの物や情報があふれています。それらは生活を豊かにする一方、善悪や真偽の判断を難しくし、境界や輪郭をわかりづらくしています。そのような中で、物事の成り立ちや本質を少しでも理解しようとする時、目の前にある形をばらばらに解きほぐしてみると、表面的に隠されていた構造や裏側が見えてくることがあります。解体された断片をみつめ、手にとり、その重みや手触りを実感することは、もとの形や全体像をとらえるうえで有効なひとつの手がかりとなるのです。目に見えるのは常に物事の一面でしかなく、その形は流動的で一定ではないということも、あらためて理解することができるでしょう。解きほぐし、読み解くことは、決して正解を探すことではなく、本来、曖昧で不確かであるはずの物事を、そのように認識し直すことでもあります。
本展でとりあげる5人の作家は、いずれも事物のあらましを読み解き、解きほぐすことで、その構造を知ろうという態度をとっています。布や糸、印刷物や文字による表現など、絵画でも彫刻でも版画でもない、その間にある独自の表現をおこなっています。解きほぐすという行為の中で、細分化された断片と向き合い、取捨選択を繰り返すことで、自分なりの価値判断をおこなっているのです。それは、手っ取り早い回答やうわべだけの感動を求めやすい世相にあって、単一の価値観に囚われないための確認作業であるともいえます。あたり前と思っていた物事を解きほぐすとき、そこには、いつもとほんの少し違う世界が見えてくるかもしれません。