写真家・入江泰吉は、戦後すぐから約半世紀にわたって奈良大和路を撮り続けてきました。それほどまでに入江を魅了したのは、大和鑽抑の文学作品の影響が挙げられます。戦後間もないころに読み感銘を受けた亀井勝一郎の『大和古寺風物誌』をはじめ、和辻哲郎、會津八一、志賀直哉らの作品に引き付けられたのです。作家の感動に共鳴しながら作品を読み返し、また東大寺観音院住職の上司海雲を通して志賀直哉や會津八一、亀井勝一郎らに私淑し大和の美意識を学び続けました。そして入江独自の大和への歴史観を育み、四季豊かな表情を見せる堂塔のある風景や古代びとの息づかいが残る万葉歌への世界、さらには先人たちの祈りが込められた仏像の表情などの撮影に取り組みました。作品には「大和の美」や「祈りの心」を余すことなく表現し、大和路のイメージを写真に定着させてきたのです。
今回は近代の作家たちが何度も訪れ歩き表現してきた大和の新しい美の発見と感動を綴った名文の一節を取り上げ、影響を受けた入江のカラーとモノクロ作品で紹介します。