小樽ゆかりの版画家たちには、木版の制作が多く、その水準の高さでも国際的に評価される版画家が多く含まれています。世界的に著名な斎藤清と棟方志功は、ともに東北出身ですが、この二人の若き日の接点が小樽にありました。共通の友人(成田玉泉)の導きによって、二人が出会ったのは1929年のことです。二人の存在が、後進に大きな影響を与え、河野薫、金子誠治がその後を追って木版の世界に飛び込んでいます。そうした流れとは別に、小樽生まれの大本靖は、多色刷木版に洗練された造形感覚を導入し、北海道の大自然をテーマに制作を続け、道版画界の牽引者となりました。
1960~70年代にかけては、急速にシルクスクリーンが普及していきました。沢田哲郎は油絵で確立した微妙なグラデーションのある抽象表現を、違和感なくこれに活かし、海外で大成功をおさめました。同じ頃、一原有徳はモノタイプ(一点刷)を発表し、一躍注目を浴びます。その作品は冷たい金属の集積や、宇宙空間などさまざまなイメージを喚起し、きわめて印象的な存在となりました。一原の職場の先輩であり、美術の世界へ導いた須田三代治は、逆に一原に触発されて熱版を試みました。
その後、70~80年代に登場した森ヒロコ、小林大は、細密表現を可能にする銅版の特性を生かして、イメージを自在に膨らませ、物語性豊かな世界を創造しています。
本展は、小樽にゆかりがあると同時に、北海道の版画の軌跡を辿るうえでも、重要な版画家たち10人を選んで構成し、木版、エッチング、アクアチント、モノタイプ、熱版、シルクスクリーンなどさまざまな版表現を紹介するものです。