本展は丸亀に先立ち4月から7月にかけて東京都現代美術館で開催されましたが、国内外で大きな話題となりました。
1953年に南アフリカのケープタウンに生まれたデュマスはケープタウン大学(1972-75)に学んだ後、オランダのアムステルダム大学等で引き続き勉学を続け、そのままアムステルダムを拠点に活動しています。70年代にオランダ、ハーレムの「アトリエ63」に参加し、古い写真や新聞の切抜きを用い言葉を添えたコラージュやドローイングの制作をはじめますが、やがて絵画制作に転じ、クローズアップした肖像やヌードの発表を続けます。ベネチア・ビエンナーレ(1995,2005)やドクメンタ(1982,92)などの国際展への出品、ポンピドゥー・センター(2002)やニューヨークのニューミュージアム(2002)、シカゴ美術館(2003)等での大規模な個展開催、ニューヨーク近代美術館やテイト・モダン、ポンピドゥー・センターなど世界の主要美術館にその作品が収蔵されるなど、現存する画家としては国際的にも不動の地位を築いています。
デュマスは、その独特の繊細で鮮烈な人物像を描く過程において、モデルを直接に使うことはありません。デュマスが描く顔やヌード作品のイメージ・ソースは、手元にストックされた膨大な数の雑誌や新聞の切り抜き、友人や自分が撮影した写真、西洋美術史上の絵画などにあり、その時の興味や関心によって主題が選ばれます。しかしながら、その作品に描かれた人物たちに特定の意味が与えられることはありません。
デュマスは「絵を言葉で説明し尽くすのは不可能です。絵は人間の実存的な有り様の表象なのですから」と語ります。彼女は絵画という表現行為に際して自らと静か対峙し、私たちが生きる現代社会に視線を送ることで、差別や偏見、民族やセクシュアリティ、ジェンダー、生と死など、この会社が抱える複雑で多様な問題を喚起させているのです。ひと筆ごとに強い感情のほとばしりをみせながらも、画面からはどこまでも冷静な彼女の眼差しが印象的に伝わります。
日本での展覧会は待望された母国南アでの個展や2008年にロサンジェルス現代美術館等で計画されている大回顧展に先駆けるもので、荒木経惟や月岡芳年といった日本の芸術家にインスパイアをうけ制作された注目の新作も含めた約170点を通して、生に溢れたマルレーネ・デ・・・