本展は、現代彫刻の世界で最も注目されている作家の一人、三沢厚彦(みさわ・あつひこ 1961~)の独創的な作品世界を美術館規模で始めて紹介する個展です。京都に生まれた三沢は東京芸術大学で彫刻を学んだ後、2000年から動物をモチーフにした「Animals」シリーズを発表。樟の丸太から削り出された実物大の動物たちは生き生きとした存在感を放ち、2001年には第20回平櫛田中賞を、2005年には第15回タカシマヤ美術賞を受賞しました。
トラ、キリン、ゾウなどの野生動物やイヌ、ネコ、ブタなど身近な動物は、既存のイメージを踏襲しながらも新鮮な造型感覚によってデフォルメされ、ユーモアとシニカルさを含んだ愛らしい、親しみやすい魅力に満ちた作品となっています。同時に、自然素材の木から新たな形を掘り出していくアニミスティックな行為は日本に古くから伝わる技法であり、作品に見られる鑿跡で覆われた表面の触覚性や量感は具象彫刻としての木彫の醍醐味を呈示しているとといっても過言ではありません。そこには三沢が幼い頃から奈良や京都の仏像に親しんだ影響がうかがえます。自身が彫刻家となった今、その伝統的な木彫の世界に、鋭敏で現代的な感性で迫り、新たな彫刻表現の可能性を押し広げているといえるでしょう。
本展ではこうした三沢厚彦の魅力を、新作を含む「Animals」シリーズを中心に、ネンドの「animals」シリーズや絵本にもなったドローイング、さらにはNYG(奈良美智+graf)とのコラボレーションとなる白クマ小屋展示などプラスαーの要素を加えて紹介します。
ポップかつプリミティブな造形、現代的な感覚と伝統的な手法が共存する点において、また、木彫が本来持っていたぬくもりを伝える点において、三沢の作品は純粋な彫刻表現へ回帰するだけでなく、サブカルチャーと美術との関係など現代美術が抱えるさまざまなテーマを率直に呈示してくれるでしょう。存在感いっぱいの動物たちと向き合いながら、彫刻の楽しさや魅力をあらためて感じる好機となるはずです。