水滴(すいてき)は、毛筆で文字を書くとき、硯(すずり)に注ぐ水を蓄えておく容器です。奈良の平城宮跡からは長方形や円形、ラグビーボール状、花瓶状の陶製のものが出土しており、奈良時代には広く使われていたことが知られます。普通、水滴というと、硯、筆、墨とともに、これらをセットとして収納する硯箱の中に入れられているものを思いうかべます。硯箱に入っている水滴は、平安時代から明治時代まで、概して箱の高さが低いため、小型で、平らなものが多いのですが、江戸時代には、そうした硯箱に収められていたものとは異なり、牛や兎、犬、桃、瓜、布袋、寿老人など、ちょっとした置物として、机や飾り棚においてもおかしくないような造形的に優れたものが作られました。
この特集陳列では、水滴の流れを概観し、江戸時代の形のおもしろい水滴の数々を紹介します。使うことの楽しさを味わわせてくれる工芸品といえるでしょう。
主な出品作品
水滴(水盂) または奈良時代・8世紀(国宝)
自然釉水滴 奈良市平城宮京址出土 奈良時代・8世紀 奈良文化財研究所蔵
花鳥唐草文水滴 石川県白山山頂出土 平安時代・12世紀
牛水滴 渡辺近江大掾正次作 江戸時代・17世紀
駱駝水滴 江戸時代・17~18世紀
白鳥水滴 江戸時代・17~18世紀
桃水滴 江戸時代・17~18世紀
李白水滴 江戸時代・17~18世紀 個人蔵
盆栽水滴 江戸時代・17~18世紀