歌川広重(1797-1858)は、約40年の作画期の間に20種類以上の東海道シリーズを制作しています。今回ご紹介する作品は、新進気鋭の意欲溢れる若い時期に描いた「東海道五拾三次之内」(一般に保永堂版東海道と呼ばれている)と、浮世絵師として成功を収め、老練な画技で制作した「五十三次名所図会」(一般に竪絵東海道と呼ばれている)の2種類です。 広重がはじめて東海道シリーズに取り組んだのは天保4年(1833)頃、37歳の時です。この「東海道五拾三次之内」は、それ以前の他の絵師が描いたどの東海道シリーズよりも話題を呼びました。本作では画中に登場する旅人と鑑賞者が重複し、あたかも鑑賞者が旅をしているかのような印象を喚起させる演出がなされています。広重はこれにより、浮世絵界で名所絵師としての礎を築きました。 もう一つの作品は安政2年(1855)、59歳の時に制作した「五十三次名所図会」です。「保永堂版東海道」を出版してから22年後に制作した、広重にとっては最後の東海道シリーズです。景観全体を見渡せる、俯瞰した構図が多いのが特徴で、近景から遠景までが写実的に描写されており、穏やかな景観が描出されています。 このたびは最も早い時期に制作した東海道シリーズと、晩年の最後に制作した東海道シリーズを対比いたします。広重の画技や画法の変化などをご堪能いただければ幸いです。