幼い頃より文学少女であった三岸節子(1905~1999)は、その長い画業の中で、様々な書籍の挿絵や装丁を手がけ、やがて自らも随筆などを書くようになります。
三岸は戦前から多くの女性文学者と交流し、夫亡き後、苦しい生活の中で、女性芸術家として同じ苦しみをもつ彼女たちと励まし合いながら絵を描き続けました。そして画壇での地位を固めつつあった1950年代は、女性文学者が華やかに活躍した時代でもあり、三岸は佐多稲子、壺井栄ら多くの女性文学者と交流を深め、彼女たちの著書の装丁を手がけました。また、戦後、女性歌人が結集した女人短歌会により40年以上にわたって発行された機関誌「女人短歌」の表紙絵も長く描きました。女人短歌会の活動は、女性画家が会派を超えて集まり、三岸も会員として参加した女流画家協会の結成に重なります。小説や文学雑誌の他にも、新聞の連載小説、或いは子供向けの雑誌等にも、的確な描写の挿絵やかわいらしい絵を寄せています。
本展では、三岸が挿絵や装丁を手がけた書籍および表紙絵の原画など約140点により、これまで注目されることのなかった三岸節子の装丁の仕事を紹介し、文学者との交流や戦後の女性作家たちの活動を探ります。