艶(えん)という言葉には、どんな意味があるのでしょう。辞書には、色つやの豊かなこと、風情あるさま、あでやかで魅力的なさま、しゃれて趣あるさま、優雅な美、などとあります。
写真集「日本の美 艶(現代日本写真全集7 集英社刊)」は、昭和55(1980)年の3月に発刊されましたが、土門拳は前年の9月に脳血栓で倒れ、以後亡くなるまでずっと意識不明でした。よって、この写真集は、土門が自ら作品を選んだ最後の写真集になりました。
監修に携わった桑原甲子雄氏は、同写真集の中で「言葉はまだ、いささか不自由ではあるが、艶なるものにふさわしい写真を、一枚一枚、二人は首っぴきで、これはよしあれはよし、と選り分けていった。その間、以前のように土門は、自己を強く主張することもなかった。むしろ彼はいま、過去の全作品を、自分の分身としてすべて慈しんでいる気配さえうかがえたのである。」と書いています。
仏像にも、風景にも、土門が感じた「艶」があります。
仏像の薄く開いた眼、手の指の微妙な様、唇に微かに残る朱、あでやかな桜…。作家の佐多稲子さんは、土門の作品は、艶と豪気の美が不思議な統一をもってひびきあっている、と語っています。
春のひととき、ご覧いただく展覧作品から、それらを感じて頂ければ幸いです。
カラーB全欅額装63点