マックス・クリンガー(1857-1920)は、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したドイツの代表的な芸術家のひとりです。彼の活動は、絵画、彫刻、版画と多岐にわたり、絵画作品としては《キリストの磔刑》や《オリュンポスのキリスト》(ともにライプツィヒ美術館)、《パリスの審判》(ウィーン美術史美術館)といった代表作を制作しています。また彫刻では、1902年のウィーン分離派展に展示された《ベートーヴェン像》がよく知られています。
しかし、彼の芸術家としての評価を高めてきたのは、こういった絵画や彫刻の作品というよりも、むしろ版画でした。クリンガーは、生涯を通じておよそ450点の版画作品を制作していますが、なかでも連作として制作された14作は、彼の代表的なものとされています。国立西洋美術館には、この14の版画連作のうち11作が現在所蔵されています。
今回は、そのなかから3作、《イヴと未来》、《ある生涯》、《ある愛》を展示いたします。いずれの作品も、ひとりの女性を中心的モティーフとして扱っているもので、単に彼の想像力に富んだ幻想的世界を示すばかりでなく、社会の状況を批判的に捉える視点をも示唆するものとなっています。これらの作品は、近代社会における、モラルなどによって構築された性差をめぐる秩序とその欺瞞性の問題を考えさせるものとなっています。それらが伝えてくるメッセージは、現在においても多くのことを考えさせてくるアクチュアルなものと言えましょう。