人の営みとともに古くから諷刺画(カリカチュア、戯画)は存在してきました。しかしそれが社会に対して「武器」とも「娯楽」ともなりうるような力をもちはじめたのは18世紀のイギリスからであり、印刷技術の革新とともに19世紀中葉のフランスで最盛期を迎えました。
ときは19世紀パリ、革命と動乱にあけくれた世の中でジャーナリズムが誕生します。一方、技術革新がさまざまな分野で起こり、鉄道の開通、新しい写真技術の発明、万国博覧会、と前世紀とは全く異なる構造の市民社会が誕生しました。このような目まぐるしい変化のなか、鋭い観察眼とオリジナリティあふれる画力で大衆を魅了した、個性豊かな諷刺画家たちが、ジャーナリズムの隆盛とともに次々と生まれました。動物や植物を主題に夢想的な変身の世界を描いたグランヴィル。七月王政を辛辣に糾弾し、転じて市井の人々を温かいまなざしで捉えたドーミエ。ガヴァルニは才気あふれるロマン派の版画家としてファッションの世界や社交界でも活躍しました。彼らが描く諷刺画は、異なる音色、異なる口調で、時代の壁を越え我々に語りかけてきます。
本展では、彼らが寄稿し活躍の舞台となった諷刺雑誌『シルエット』(1829年創刊)、最も重要な諷刺雑誌『カリカチュール』(1830年創刊)、その後を担う日刊紙『シャリヴァリ』(1832年創刊)を軸に据え、彼らが手がけた版画や挿絵本などをとおして19世紀フランスの諷刺画の世界を展覧いたします。絵が語るさまざまな事柄(職業、ファッション、エンターテインメントなど)から時代の息吹、人々の嗜好、ライフスタイルをもうかがい知ることができるでしょう。
また、諷刺画をより一層おもしろく味わってもらうために、19世紀の社会を紐解く講座を3回シリーズで開講いたします。諷刺画は社会の鏡であり、その時代の扉を開ける鍵となります。諷刺画のもつ情報=時代の声に耳を傾けてみませんか。きっと新鮮な驚きに出会えるはずです。