近代日本の画家たちは西洋絵画の写実表現を驚きをもって迎え入れ、それを積極的に取り込んでいきました。やがて次々と西洋から入ってくる新しい絵画の様式を受容し、そこからの独自性をもった作品の制作という課題に取り組む画家が多くなると、写実からは遠ざかる傾向の表現も盛んとなります。抽象的な表現はその最たるものですが、これは近代から現代にかけての絵画表現の大きな潮流を形成するにいたっています。
しかし対象を細部まで描写することでその存在まで描ききろうとした画家や、視覚的再現からは離れても対象の現実感、生命感を描きつけることを主眼とした画家たちの制作も見逃すことのできないもので、ここに近代日本の絵画の充実した個性的な表現をうかがうことができます。
この二つの潮流に焦点をあてた「写実と抽象」を田辺市立美術館の開館10周年を記念した特別展、『近代日本絵画の諸相』の最終章として開催します。