クロスカウンターとは、「相手が繰り出すパンチに対して、交差的に打つフックのこと」というボクシングの用語です。この展覧会(リング)で相対するのは、小沢剛と中山ダイスケ。ともに岡本太郎記念現代芸術大賞において準大賞を受賞しているという共通点はありますが、表現された作品はかなり異なります。しかし、それぞれの形で日本の戦後美術を牽引した岡本太郎の思想を継承しているアーティストです。
小沢剛の作品は既成の美術や社会的制度といった枠組みを、独特のユーモアで揺さぶりながら、正規な文脈に疑問符を投げかけます。例えば、日本人には調味料として欠かすことのできない醤油で描いた《醤油画》は、アカデミックな日本美術史を揶揄しながらずらし架空の美術史をシュミレーションする作品。また、小沢は「美術は個の表現である」といった既成概念を、人に相談しながら制作していく《相談芸術》やたった一人のグループショー《岡本一太郎・二太郎・三太郎》の多人格的表現などで揺さぶります。
一方、小沢とパンチを打ち合う中山ダイスケは、一見すると小沢とは対照的な作品を作り出しています。例えば,友人、親子、そして恋人など様々な「人と人との関係」を見える形にして、本来の意味を問いかける作品《DELICATE》。人間が最初に手に入れた原始的な武器(棍棒や弓矢)からピストルにいたる「武器(物)と人との関係」のプラスとマイナスの両面を拡張し、具現化した《GRIP》や《GUN PROJECT》。これらの作品には中山の鋭い感性と造形感覚によって、因習的な意匠が脱がされ、本来的な「人と人との関係」や「物と人との関係」が露呈しはじめるようです。
岡本太郎が戦後、彼の芸術観の核として唱えた「対極主義」に見合う、小沢・中山二人の作品は、互いにクロスカウンターを打ち合い、緊張感溢れる展示空間を築くことでしょう。私たちは、観る人に作品を通して日常性の裏に潜む何かを感じてもらえることを期待しています。