毎年正月に神社へ詣でて願い事をするとき、みなさんは神さまをどのような姿として思い描いていますか。おそらくは埴輪の人物のような服を着て、みずらを結った姿を思い浮かべるのではないでしょうか。しかも威厳に満ちた落ちついた表情をして。しかし、そのようなイメージは近代以降の美術作品が記紀神話などに登場するいにしえの神々を、そういった姿として描いたがために広まったものにすぎないのです。
今回の特集陳列は、われわれの先祖たちが神々の姿としてどのようなイメージをいだいていたのかを、古代から中世にかけてあらわされた彫像および絵像をとおして知ろうとするものです。ここには、慈愛に満ちた姿だけではなく、激しい怒りをあらわにした神の姿をみることができます。わが日本人の先祖たちにとって神々とは、守りをほどこし願いをかなえてくれるだけの存在ではなく、怒る存在、恐るべき存在でもあったのです。だからこそ、神の怒りをかわないように普段から居住まいをただし、折々には神を祀り、さまざまな神宝や芸能を神々にささげてきたのです。神々の姿とは、すなわちわれわれの先祖たちの心を如実に反映しているもの、ということが言えるでしょう。神像の姿を通して、先祖の心に触れていただけましたら幸いです。