「古寺巡礼」は、土門拳がまだ写真家としてはほんの駆け出しの昭和14年暮れ、美術史家の友人水沢澄夫氏と共に、奈良の室生寺を訪れ、その翌年京都の広隆寺、奈良の中宮寺へ撮影に行ったことから始まっています。写真家として何を写すかということがまだてんではっきりしていなかった土門と、この時の仏像群との出会いが、その後40年に及ぶ仏像撮影の始まりであり、写真家としてのルーツともいうべき貴重な体験となりました。
土門は1979年に出版した写真集「日本の彫刻1」後記で「今にして思えば、ぼくの仏像彫刻の最初が広隆寺の弥勒半跏像だったが、好きなものを好きなように撮り、嫌いなものには見向きもしないという撮影態度は、すでにこの時から始まっていたようだ(中略)好きなものを好きなように写し、嫌いなものは鼻もひっかけないほど冷淡にして決して撮ろうとしないという、まことに我が儘な撮影態度を40年の間、続けてきたのである。昔を思えば感慨無量である。」と語っています。
土門と出会い、土門が心から魅せられ、そして写された、日本の仏像彫刻の数々。その美しさ、力強さ。日本の仏像彫刻の多彩な魅力をお楽しみください。