幕末から明治以降に本格的に移入された西洋絵画の画材、技法を受容して、それを自らの表現の手段としようとした画家たちの多くは、あいついでヨーロッパに渡り、そこで本場での技術、思考を吸収しようとしました。しかしそこで、西洋、特にフランスに興る新しい絵画の様式をいかに理解するか、また西洋絵画の単なる模倣にすぎないものでない作品をいかに制作するかという課題を背負います。
その中で20世紀初頭に勃興した、勢いのある筆蝕や主観的な色彩の使用、その色面の構成による躍動感のある画面を特徴とするフォーヴィスム(野獣派)の与えた影響は特に大きく、そこに様式よりも主観的な表現の重視をみてとり、その手法によって独特な絵画の表現の可能性を探った画家は少なくありませんでした。
田辺市立美術館の開館10周年を記念した特別展、『近代日本画の諸相』の第Ⅲ章として「水彩画の近代」、「日本画の個性」に引き続いて開催する今回の「表現主義の流れ」では、こうした、対象の視覚的再現よりも内面の表出を重視して製作をおこなった画家たちの潮流に焦点をあてて、その優れた成果を紹介します。