「ぼくたちはみなフランスで本物を勉強したいという念願でいっぱいだったし、そのころフランスへいくというのはそれは大変なことでしたから」
1927年に初めてフランスに渡った荻須高徳は、当時の心境をこう振り返っています。飛行機など思いもよらない時代。一月あまりの船旅の果てにようやくたどりつくことができた国フランス、そして芸術の都パリ。今では想像することも難しい、日本と彼の地を隔てていた途方もない距離と時間は、そのまま当時の若者たちの憧れの強さと結びついていたのです。フランス、そしてパリに憧れていたのは日本の若者たちだけではありません。ロシア、イタリア、スペイン、アメリカなどなど、世界中の若者たちが彼の地を目ざし、その彼らがやがてエコール・ド・パリ(パリ派)という呼び名で語られるようになったことはよく知られています。
今回の展覧会では、モディリアーニ、シャガール、スーチンなど、エコール・ド・パリの中核を成す画家たちはもちろんのこと、同じパリの空の下で成功を夢見ていた多くの日本人作家の活動を紹介します。最初にして最大の成功者、藤田嗣治に続こうとするもの。フランス人の異国趣味に訴えようと日本画を武器に活躍するもの。最先端の美術思潮を学び日本に持ち帰ろうとするもの。動機や目的はそれぞれに違うものの、パリに寄せる熱い思いという一点で彼らは深く結びついていたのです。そんな彼らの思いが込められた作品約130点が会場に並びます。