北海道松前町出身の書家・金子鴎亭(1906~2001)。今年はその生誕百年にあたります。鴎亭は、ここ函館美術館の開館に際して自作や多くの古美術を寄贈しました。そこで鴎亭記念室では、20年間にわたり「東洋美術と書」をテーマとしたコレクションの数々を紹介してきました。
書画、陶磁器、彫刻など、多様な分野の芸術と親しみながら、書の探求に邁進した鴎亭は、東洋美術の粋は「線」であることを指摘しています。「線」の美しさは、絵画、陶磁器、彫刻などにも通じるものであり、特に書においては、もっとも重視されるものです。鴎亭は、古典を学ぶことで「線」の質を高め、一方、様々な芸術作品から得たインスピレーションを制作に反映することによって、書の世界に一分野を切り拓いたと言えるでしょう。
ここでは、鴎亭に多大な影響を与えた師である大塚鶴洞、川谷尚亭、比田井天来、中野越南の作品と、鴎亭が長年にわたって収集、愛蔵した様々な美術品を展示し、書家・鴎亭の生涯に深く関わった人や物に目を向けていただきます。また、書を日常生活に取り入れるために取り組んだ陶磁器への揮毫や、映画のタイトル、展覧会ポスターの題字なども、鴎亭の書業の幅広さを知る貴重な資料です。さらに、鴎亭の自宅の書斎を飾っていた扁類(天来と越南の揮毫による)をご遺族よりお借りすることができましたので、ここにご紹介します。
10月15日より開催の特別展「生誕100年記念 金子鴎亭の書」では鴎亭の代表作を一堂に展示しますので、ぜひ併せてご覧頂き、鴎亭の芸術性にふれていただければ幸いです。