戦後フランス、そして世界を代表するポスター作家、レイモン・サヴィニャック(1907-2002)。あたたかなユーモアにあふれ、見る人の目を釘付けにするウィットに富んだ彼のポスターは、いまなお国を越え、世代を越えて人々に愛されています。
しかし彼の画業は決して気楽なものではありませんでした。長い下積みののち、ピンクの牛の乳から直接石鹸が出来上がる、という驚くべきイラストを用いた《牛乳石鹸モンサヴォン》(1948/50年)のポスターでようやくデビューしたのは40歳過ぎ。その後は人気ポスター作家としてさまざまなクライアント(広告主)から引っ張りだこになりますが、1970年代に入ると、サヴィニャックへの依頼は激減してしまいます。大手の広告代理店による広告制作が主流になり、またイラストではなく写真がポスターの主役になってしまったからです。
不遇をかこちながら、それでも彼はポスターの原画を描き続けます。そして70歳を過ぎた1981年、業績不振に陥ったシトロエン社の復活をかけた広告キャンペーンに抜擢され、大成功を収めたのです。
晩年はノルマンディ地方のトゥルービルに移り住み、94年で世を去るまで、街の広報活動に協力したり、公共ポスターなどを手掛けたりしながら、現役のポスター作家として活躍しました。
このたびの展覧会は、大阪のサントリーミュージアム[天保山]の充実したコレクションに、川崎市市民ミュージアムの所蔵品を加えた約90点の作品によって、サヴィニャックの長い人生と画業を本格的にご紹介するものです。秀逸なアイデアと洒脱なユーモア、そして明快な造形性から生まれる彼の優れたポスターは、その人生への姿勢とともに、多くの人に喜びと感銘を与えてくれることでしょう。