20世紀初頭のパリでは、ルネサンス以来の最大の美術革命と言われるキュビスムが、ピカソとブラックによって着々と成し遂げられていくかたわらで、都会の憂愁を湛えた近代肖像画の傑作が、モディリアーニという悲劇の画家の手によって次々と生み出されていました。ピカソはスペイン、モディリアーニは、イタリア出身であることからもわかるように、世界中の芸術家の注目を一身に集めていたパリは、次はシュルレアリスムの舞台となり、新たな美の領域が切り開かれていきました。
もっとも、ピカソもモディリアーニも一つの様式にとどまっていたわけではなく、次々と提示される新しい美術に自らの個性を対峙させながら、この刺激的な時代を駆け抜けていきました。直線的な発展には収まりきれなくなっていた近代美術は、エコール・ド・パリと呼ばれる百花繚乱的な様相を呈しはじめます。そしてパリを舞台とする美の奔流は、第二次世界大戦によって息の根を止められてしまったかのように見えましたが、その荒廃を真摯に見つめたビュッフェのような画家の登場により、また新たな時代へと引き継がれていきました。
本展はこのような美術の流れを、北フランスのリール近代美術館の所蔵作品で展観します。その基礎を築いたデュティユールというコレクターは、同時代を生き、伝説的画商カンワイラーと交流し、誕生したてのキュビスム作品を購入したことで知られています。20世紀の美術の挑戦と、それを受けて立ったコレクターの意気込みとリリシズムを、ここから充分に感じとっていただけることでしょう。