ユーラシア北方草原地帯の東部にあたる中国北方では、羊などを飼育する放畜民が古くから暮らしていました。そこでは持ち運びや家畜の解体に便利で、動物の意匠をあしらった青銅器が多く使われました。この特徴は南シベリアの青銅器と共通しており、同時代の中国農耕地帯で栄えた容器を中心とする商・周の青銅器とは異なります。前八〇〇年頃には家畜とともに長距離を移動する本格的な遊牧民がユーラシアの草原に登場します。すると中国北方の青銅器は、さらに遠い黒海沿岸・中央アジアのスキタイ文化やサカ文化の影響を受けるようになりました。文字をもたなかった草原の民の歴史を、中国北方の武器・馬具・動物意匠の青銅器でたどります。