1934年、ドイツから帰国した名取洋之助が率いる「日本工房」により、グラフ雑誌『NIPPON』が刊行されました。これは英独仏西の4か国語で書かれた対外宣伝用の雑誌で、1930年から第二次大戦期の日本の印刷物としては画期的なデザインと内容で高く評価されましたが、ほとんど海外向けに頒布されたため、長らく幻のグラフ誌とよばれてきました(1号~36号)。
この展覧会は、『NIPPON』を軸に、報道写真とグラフィック・デザインの両面にわたり新たな次元を切り拓いた先駆者、名取洋之助と日本工房の知られざる全貌を明らかにする、初めての大規模な展覧会です。
1920年代から30年代は、印刷物による情報伝達に革新がもたらされた時代です。たとえば、写真と文章を大胆なデザインでレイアウトして見せる雑誌が諸国で人気を博し、フォトモンタージュなど人目を引く効果的なデザインが、グラフ雑誌や広告ポスターを華々しく飾りました。
ドイツでデザインと写真を学んだ名取洋之助(1910-1962)は、こうした欧米の最先端の潮流と「報道写真」の考え方を日本にもたらした革新者です。帰国して、写真家そしてアートディレクターとして活躍しました。名取は、1933年、デザイン制作工房「日本工房」を結成します。日本工房には、土門拳や河野鷹思、亀倉雄策などの若き、才能のある写真家・デザイナーが結集し、写真とデザインの領域で画期的な仕事を残すことになりました。
本展では、新発見を多数含む約400点の雑誌・印刷物・写真・作品資料などにより、激動の時代に生きた名取と日本工房に集った若き写真家、デザイナーたちの活動の軌跡を見つめます。