本展で紹介する《パンテオン・シャリヴァリック》シリーズは、ルボーの描いた人物戯画のなかでも最高傑作のひとつです。歴史に名を残す19世紀の諷刺誌「シャリヴァリ」紙上で4年間にわたり本シリーズは掲載され、作品は100点余りにのぼりました。本展ではそのなかから当館で所蔵する約70点を初公開します。古代の汎神殿を意味し、パリでは偉人の霊廟としても有名な「パンテオン」。本シリーズは、「シャリヴァリ」紙をそのパンテオンにみたて、19世紀の花の都パリを彩った画家、彫刻家、小説家、詩人、ジャーナリストなど、芸術に秀でた才人によって埋め尽くされています。戯画化された登場人物は目を奪われるほどユニークで、巨大な頭に、尖った鼻、丸い瞳に、大きな口と、特徴をよく捉えながら多彩な表現で見事にデフォルメされています。自然と各々の個性が伝わってくるのは、ルボーの鋭い観察力と確固たる描写力に支えられているからでしょう。
■「狂相曲」って誤植?:《パンテオン・シャリヴァリック》シリーズを紹介するにあたり、展覧会名を「狂相曲 シャリヴァリ宮の才人たち」展と名づけました。これは、音楽用語の「狂想曲」〔気まぐれの意、形式が一定せず自由な機知に富む小品、カプリース〕のように、才人たちが次から次へと表情豊かにユーモアあふれた姿で登場してくる様に着想を得たものです。また「狂言」「狂歌」というように「狂」という文字には「滑稽」「戯ける」という意味が含まれており、戯画や漫画のことを江戸時代では「狂画」とも呼びました。ルボーの絵は見るからに楽しく、現代の漫画に通じるセンスさえあります。
ユーモアに満ちたシャリヴァリ宮に名誉(?)の殿堂入りを果たした、当時の才人総勢約70名による夢の饗宴を是非ご覧ください。