" ひろしま美術館には、ルノワールの晩年の代表作『パリスの審判』、レピーヌ『パリ市庁舎河岸のりんご市』、あるいは中庭にあるブールデルの彫刻『果実』など、作中にりんごが登場する作品がいくつかあります。そうしたことから、「りんご」をキー・ワードにあらためて美術史を眺めてみると、卓上の静物画はもちろんのこと、パリスの審判をはじめ、アダムとイヴ、りんごを手にして聖母に抱かれる幼子イエスなど、様々な場面で、実に多くのりんごが描かれていることに気づきます。それらのりんごは、人類の原罪の象徴であったり、豊穣、誘惑、愛、反対に生命のはかなさのシンボルであったり…と、それぞれの主題に密接にかかわる存在として描かれてきました。
近代に入り、芸術のあり方が大きく変わると、りんごのもつ象徴性は希薄になり、モティーフとしての重要性が増してきますが、それでも""何故りんごか?”という問いを投げかけるとき、近代以降の画家たちも、りんごが語りつづけてきた物語から、決して解き放たれていない事実が浮かび上がってきます。
本展は、西洋文明の伝播とともに、西洋絵画とりんごをともに受容した日本の作家の作品を含め、16世紀のデューラーから、セザンヌそして現代にいたる絵画、版画、写真、彫刻、工芸およそ160点の作品に現れたりんごを取り上げ、作家たちを捉えてはなさなかった“りんごの秘密”を探ろうとする試みです。"