日本の繊維の歴史を振り返ると実にさまざまなものを原料として利用してきました。身近にある植物の繊維を編んだり、養蚕の技術が渡来してくると繭から生糸を繰り、その長繊維を生かした織物技術も併せて日本に伝えられてきました。また、繭から真綿にし、つむぎ糸とする技術も古くから行われてきましたが、その後「つむぎ」は養蚕農家の副業として、農閑期に出荷用繭を選別する際に残った屑繭を利用して作られるようになりました。現在では高価な「つむぎ」も、当時としては自分たちの手間隙をかけて作ることができる日常の生活着でした。
このたびの特別展「今に伝えるつむぎの魅力」では、各地域の風土の中で生まれ育まれた技術を今に伝え、重要無形文化財保持者・保持団体および伝統的工芸品に指定されている「つむぎ」を中心に展示紹介します。日本の養蚕農家が激減し、外国産繭の流通が大半を占める中で、繭や真綿から丹念につむぎ出した糸を織り成して生まれる「つむぎ」の技術と歴史を併せてみていただき、伝統を現代へそして次の世代へと受け継ぐ人々の努力をあらためて見直す契機になれば幸いに思います。
また、手つむぎ糸や手織、手作り真綿の実演、小さな真綿や太糸作りの体験なども行い、“つむぎ”に関わるものに触れて素材のあたたかさを感じていただきます。